東京地方裁判所 昭和43年(ワ)437号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕民事訴訟では、当事者は裁判に対し事案の真相を明かにして、自己に有利な判決を求めんとするものであつて、口頭弁論主義を基調とする以上、当事者(その訴訟代理人をふくむ)がその攻撃防禦のため忌憚のない主張を互いにつくすことこそその目的にそうゆえんである。
そのための辞句のみを聞けば、相手方の名誉感情を害し、また、社会的評価を低下せしめる如き、一見妥当を欠く表現であつても、それが、右訴訟制度の目的上、当事者が相手方の主張に対し自らの立場を明確強力に主張するため必要である場合等には、必ずしも名誉毀損による不法行為を成立せしめないことがあることを留意しなければならない。
ところで、<証拠>によると、別訴原告である本件原告の夫高橋銀治は、別訴の訴状で隣家河合美郎所有宅地との境界について同人とかねて紛争中であつたが、河合美郎が昭和四一年一〇月ここに一方的に塀を作ろうとし、原告方でこれに異議を申入れ、同年同月三一日早朝には境界現場で双方話し合い、改めて関係図面等の資料を持ちよつてさらに話し合うことになつたにもかかわらず、河合美郎は同朝九時頃突然作業員を入れて、その主張境界上にブロックを積ませ始めたので、高橋銀治はその違約を責め中止を求め、ついにパトロール・カーの来援をえて右工事を中止させることができた旨、また、その記述が必ずしも明白でないが、そのとき本件原告がそこに居合さなかつた旨を主張していること、これに対し別訴被告河合美郎代理人である本件被告がその答弁で高橋銀治の右主張を一方的な陳述で事実には著しく遠いものであると主張してこれを争い、かつその点について必要の限度で反証すると述べて、昭和四一年一〇月三一日の境界現場に作業員の入つた折の原告の様子を前掲辞句の通り表現したことが認められ、また弁論の全趣旨から被告が河合美郎の訴訟代理人としてその模様についての確信に従つて記述したことも認められる。
そうすると、被告の答弁中の右辞句は高橋銀治の「パトロール・カーの来援を得て工事を中止させたい」との主張が、警察官も同人の主張を是認したかの如き表現とも読みうるためこの主張に反ばくを加えるべく当時の情況をさながらに表現せんとしたものであり、また、原告がその現場に居合さなかつた如き主張に対しても同様にかつ印象的に反対の事実を主張したもので、その措辞必ずしも妥当ではないが、別訴原告の主張に対し別訴被告訴訟代理人として必要上やむをえない主張と解せられその答弁は不法行為を構成するに足る違法性を具有しないものと解するを相当とする。(西岡悌次)